お手入れ

完結 最終更新: 2026/09/23

"自分の玉のような美しい肌を誇りに思っており 老化に極端な恐怖を抱いている"から始まった

成人向け グロテスクな表現・不穏な描写を含みます

薔薇を浮かべ豊富に栄養を溶け込ませた湯に浸かる
私は世界で一番
いや世界なんて狭すぎるわ
生きとし生けるもの その中で燦然さんぜんと輝く最も美しき存在
それが私
皆が羨む事すら忘れてため息をつく
特にこのどこまでも透き通るような肌
「ふふ 今日も素敵ね」
湯から手を挙げる
雪より白く 絹より滑らか
水を弾くような肌も彼女にとっては比喩ではない
玉となって滑り落ちる水はその肌を濡らす事すら許されない
その光景を眺め悦に浸る
私より美しいものなんて存在しないわ
花は枯れる
宝石は曇る
私の肌は違う
きめ細やかな泡で体を洗い流し
いつものように丁寧に
そう丁寧に手入れして
眠りにつく それは永遠に続くのだと

いつものように風呂へ入る
いつもより暖かく心地よい
それこそ温度が芯まで染み込むように
疲れが湯に溶けて行くように
不思議に思いながらも心地よさに身を委ね
何の気なしに腕を上げる
その腕から水が滴り落ちる事なくすぅと肌に広がる
その光景に彼女は青ざめる
「うそ....うそ!!」
幾度となく手を湯に沈め出す
その度に肌に広がり染み込んでいく
いとも容易く水が私を犯す
こんなの私の肌じゃない
私の肌は....!
水が玉となって滑りおちる肌!
雪よりも白く何よりも輝く
誰にも侵されない美しさの象徴
それが私の自慢
誰もが羨む私 美の象徴
「いや! いやぁ!!」
冷水を浴び 濡れたまま
並べられた瓶から乱雑に手に取り
化粧水を肌に溶かし込む
「大丈夫」
「大丈夫」
「私は綺麗」
「私は綺麗だから....」
「私は綺麗....よね?」
ふと壁にかけられた鏡に目を向ける
ほら 私は美しいまま....
そう たまたま.... たまたま何かがずれただけ
精一杯の笑顔を作る
目尻に皺が走った
乾いた地面を走る亀裂のような皺が
「────────!」
信じない そんな事は
ありえない ありえないありえないありえないありえない
そう そんな事はありえない
皺なんてそんな使い古された服のような
あぁそうか 古かったんだ
た ま た ま 肌 が 古 い ま ま だ っ た ん だ
新しくしなきゃ 下にもっと下に本当の私の肌があるんだ
きっとそう なんだ
なんでそんな簡単なことに気づけなかったんだろう
カリカリと肌を掻く
でておいで 私
皮膚に爪がめり込み裂ける
出てきて 早く出てきて!
剥がれ 血が溢れ出す その血がまた薄く横にひろがり染み込む
それを見てさらに狂った
もう彼女は止まらない
「私の 私の肌」
腕を掻き 首を書き顔を掻き
どんどん醜く美しく赤く染まって行く
いつの間にか纏うは真紅のドレス
彼女は踊る
回る度に裾のように広がる血溜まり
くるりくるり狂り
回る度に雪が舞う
かつて世界で最も美しかった肌が
「あぁ あは あは ダメ...
私の 私の はだぁ」
力なく床に座り込み
雪のような肌をかき集める
「いっぱい ぜんぶ私の いとおしいはだぁ あは あはは」
両手で集める
指の間から溢しながらも
集める 集める
まだ私が落ちている
私が
いっぱい...